2019年4月18日木曜日

春の1日会議2019

414日に「2010NPT運用検討会議」を議場として(但し、春一の特性を考慮し議事進行・成果文書の形式は国連総会に準じています)春の1日会議が行われました。駒場研究会より11名の上級生と15名の新入生が参加し、「核の役割低減」「中東問題」の2点を論点として激しい議論が展開されました(他に2名の新入生が見学にいらっしゃいました)。

1.論点、開始まで

「核の役割低減」においては、新アジェンダ連合(NAC)や非同盟運動諸国(NAM)が要求している核兵器国による「第一不使用」政策の採用の是非や、同じくNACNAMが求める現状より広範な「消極的安全保証(NSA)」の適用の可否などが議論されることとなっていました。
「中東問題」においては、欧米諸国の主張するイランのIAEA憲章不遵守や、逆にNAMの主張するイスラエルの核放棄とNPT加盟を求める「中東決議」の履行について、どれくらい踏み込んだ主張がなされるのか、が注目されていました。

今回の会議では、独自の試みとして、11名の上級生デリに自国スタンスをPPという形で1枚のプリントにまとめてもらい、その国を担当する新入生デリに配布しました。議長から議題解説を行なった後、上級生からそのプリントを利用して自国のスタンスをそれぞれ説明し、会議は10:30より開始されました。

2.会議冒頭、議論議論

会議は、冒頭から荒れ始めました。開始直後、アメリカ合衆国(US)大使の行ったイランのIAEA憲章不遵守を批判するスピーチに対してイラン大使がRight of Replyの行使を宣言、両国大使による激しい論戦が展開されました。その後の議論議論においても、US大使はその提出したTT案において、「中東非核兵器地帯に関する議論はNSAにおける文脈で一般化した形で議論すれば良い」と主張、会議時間の半分をかけてIAEA憲章不遵守問題に関する議論を行うことを主張するなど、イランの批判に対して非常に強い態度で臨みました。一方で、イラン大使も「IAEA憲章不遵守」という問題は「実際の問題としては存在しない」としてその論点の削除を主張、両国の激しい対立は議論議論においても継続されました。結局、TT案については、インドネシア大使が提出したもの(比較的穏健な内容だが、中東非核兵器地帯に関する議論をIAEA憲章不遵守に関する議論より優先している)がUS案と投票にかけられ僅差で採択され(日豪独仏4ヶ国がUS案に、中露及びエジプト、イラン、ブラジルの5ヶ国がインドネシア案に賛成しました)、以降の議論はインドネシアTTをベースに行われることとなりました。

2.実質議論

実質議論に移った際、まず日本大使より作業文書(WP)が提出され、核廃絶、不拡散に向けた措置としての6項目が提案されました。このWPは日豪政府のイニシアチブで設置された「核不拡散・核軍縮国際委員会(ICNND)」が200912月に発表した報告書をベースにしており、オーストラリア大使もこのWPに対して直ちに賛同の意を示しました。一方で、戦術目的の核兵器使用を重視する立場のロシア大使は「2025年までに第一不使用を宣言するように促す」とある日本WPに対して警戒感を表明、NACからは逆に消極的安全保証の法的拘束力の必要性という観点から懸念が示されました。
この時点で、新入生大使が各国のスタンスへの理解を深める時間を兼ねて、主張内容のすり合わせのために一旦非着席討議(アンモデ)が取られました。このアンモデでは核兵器国(米露中仏)、中間国(日独豪)、NAC及びNAM(エジプト、イラン、インドネシア、ブラジル)の3つのグループに分かれて今後の議論における連携強化を目指した話し合いが行われました。筆者は核兵器国グループの協議を聞いていましたが、フランス大使が核兵器国で唯一第一不使用や消極的安全保証を宣言している中国の大使に対して「核兵器国の足並みを乱さないように」と求めている場面があり、核兵器国はその団結になかなか苦労しているように見受けられました。
この後、昼休みを挟み(この際のアクシデントで再開が30分遅れてしまいましたが)、あらためて着席討議(モデ)で第一不使用について、続いて消極的安全保証についての議論が行われました。その後に取られた「核の役割低減」全体を包含した議論を行うためのアンモデも含めて、どちらの論点も合意には至りませんでしたが、どのような対立があるのか、ということについての洗い出しには成功しました。
しかし、ここに至るまでの討議は大幅にインドネシアTTの予定時間を逸脱しており、中東問題に関する議論を十分に行う時間がなく、この論点については「各国が自国のスタンスを表明、具体的な議論は文言交渉の中で行う」こととされ、非常に短い時間でモデの議論を終了させざるを得ませんでした。

3.文言交渉、文言採択

この時点で、決議案(DR)の提出締切である16:45まで残り1時間ほどしかなく、いつもにも増して必死で文言交渉が行われました。議論の叩き台として、オーストラリア大使より草案が提出され、US大使及び日本大使からも文言案が持ち込まれました。これら3ヶ国の文言をベースにした交渉が開始されましたが、USの文言はイランへの強い非難を盛り込んだものであったことからイラン大使はこれに強く反発、交渉がまとまる見通しは全く立ちませんでした。
その後のアンモデは中東問題に関するイランとUSの直接交渉と、それ以外の国々による核の役割低減に関する文言交渉に分かれました。USは自国の提出した文言を撤回する条件として、中東非核兵器地帯に関してイスラエルを直接的に非難する文言を削除するように要求、イラン側もその方向性に同意して、文言の交渉が行われました。核の役割低減においてはエジプト大使が議場で継続的に主張していた消極的安全保証の法的拘束力付与についてどこまで文言に盛り込めるのか、第一不使用については強く反発するロシア大使を同意させることができるのか、といった点が交渉の焦点になりました。
提出締切目前には議長が議場の時計を確認できないように某大使が議長を押さえつけようとするなどのかなり強引な手段も取られましたが、結局議長がアンモデの終了とDR提出受付の終了を宣言する直前に1本のDRが議場に提出されました。Speakers Listが使い切られていたこともあってDRは直ちに投票にかけられ、11ヶ国全てが賛成して採択されました。

4.決議の内容(重要な部分のみ)

【核の役割低減】
・核兵器国にすべての軍事上・安全保障上の概念、ドクトリン、政策において、核兵器の役割と重要性をさらに低減させることをめざしてただちに取り組むことを呼びかける。
・全ての核保有国は、2025年までに「第一不使用」を宣言するよう促す。しかし、その準備ができていない国に関しては、核兵器を保有する唯一の目的が、自国またはその同盟国に対し他国が核兵器を使用することを抑止することであるという原則を早急に受け入れるように促す。
・核保有国とそれ以外の全ての国に国内の安全保障戦略において核の役割を低減することに専心するよう促す。また、核保有国に対し早急により強固な消極的安全保証を適用するよう促し、将来的な法的拘束力の付与を検討する。
・すべての関係諸国に、非核兵器地帯条約とそれらに関連する議定書を批准し、消極的安全保障を含めたすべての非核兵器地帯条約の法的拘束力をもつ関連議定書の発効を実現することを促す。

【中東問題】
・(前文)IAEA包括的保障措置の下でのすべての核施設の配置についての2000年の再検討会議による再確認を想起し、(※オーストラリア草案に含まれていた「イスラエルによる条約への加盟の重要性」が想起される対象から外されている)
・まだそのようにしていない中東のすべての国に、早期にその普遍性を達成するために非核兵器国として条約に加盟するように呼びかける。
・中東のすべての国に対し、1995年の中東決議の目的の実現に貢献するための適切な措置と信頼醸成措置を講じることを促し、この目的の達成を妨げるような措置をとることを控えるようすべての国に強く要請する。
1995年中東決議を完全に実施するための以下の実践的なステップを呼びかける。
a.国連事務総長と1995年中東決議の共同提案国は、同地域の国々との協議により、中東の全ての国家が参加する、中東核兵器・大量破壊兵器禁止地帯を設立することについての会議を2012年に開催する。この会議は同地域の国々が自由意思で一致した合意に基づき、核兵器国の全面的支持と関与を得て行われる。この2012年会議はその委託事項として1995年中東決議を取り上げる。

5.決議に関する評価

採択されたDRは(史実の2010年運用検討会議の最終文書と比較して)、核の役割低減について相当に進歩的な内容が盛り込まれました。2025年までの「第一不使用」宣言、あるいは唯一の目的原則の受け入れという内容は日本WPの内容がそのまま採用され、これまでの運用検討会議(や、史実の2010年最終文書)では一切触れられなかった第一不使用政策について初めて文書にその言葉が載りました。また、長年核兵器国の「宣言政策」に頼るしかなかった消極的安全保証について「将来的な」「検討する」とかなり弱い表現ではありながらも法的拘束力の付与の可能性が示唆されたことは画期的な内容であったと言えるでしょう。
しかしながら、核の役割低減に関する文言は結局のところ「理念」の段階に留まっており、現実的にどの程度の実効性があるのか、ということに関しては疑問の余地があります。もちろん、急進的な改革は核兵器国の同意が得られないであろうことを考慮すると、この内容が非核兵器国が核兵器国から引き出せた譲歩の限界であったのではないでしょうか。

一方、イランとUSの直接交渉によりほぼまとめられた中東問題については、両国の合意により(US文言案に含まれていた)イランを非難する文言は全て削除、その反面中東非核兵器地帯についてはイスラエルを直截的に非難する文言は排除され「NPTの普遍性のために条約に加盟していない中東の国が加盟すること・中東決議の履行」が求められる、という内容になりました。イスラエルが名指しされずに済んだのは(史実と比較して)USが譲歩を引き出したと言えますが、「NPTに加盟していない中東の国」がイスラエルであることは明白であり、その点で文言は有意味なものであると言えるでしょう。

6.おわりに

アクシデントがあったこともあり、わずか5時間しかない議論時間でこれほどの内容の決議案を作成した大使の皆様の努力に対し、心から感謝を申し上げます。初めて模擬国連の会議に参加したであろう新入生が多かったにも関わらず、新入生の中に午前中の議論議論から発言するデリ、スピーチ原稿を自ら書くデリ、アンモデでプレゼンスを発揮するデリなど、筆者の想像をはるかに超えて会議において躍動する方々がいらっしゃったことには大変驚かされました。全ての大使にアワードをあげたいほどでしたが、モデアンモデと満遍なく活躍されたイラン大使のお2人と、アンモデにおける発言が多くの上級生デリから高く評価された中国大使にアワードとして国連グッズを差し上げました。
最後になりましたが、初めてフロントを務めた未熟な私を支えてくれたフロントメンバーの2人、さまざまな手助けをしてくださった11期の先輩方、かなり緊急にお願いしたのにも関わらず引き受けてくださった当日セクの皆様、新歓に忙しい中会議準備をするなどさまざまな支援をしてくれた同期のみんな、そしてなにより、会議に参加して活躍してくださった新入生デリの皆様に、心から感謝を申し上げます。

文責春の1日会議議長12期研究米田岳広